雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

『雑音万華鏡-Noiz-』終了によせて

2014年2月27日からスタートさせた『雑音万華鏡-Noiz-』も、約1年という間に無事に50本という区切りのよい数を重ねることが出来ました。「能動的に文章を書く」ということだけを主題に書き続けてきましたが、キリの良いところで終わらせたいと思います。 改め…

Vol.50 ストーリー / スガシカオ (1998)

また一つ歳を重ねた。歳を重ねるということは過去を重ねることであり、同時に未来を削っていくことでもある。人生の貯金箱は過去にあるのか未来にあるのか。 育って行く子供たちの貯金箱は未来にあり、言葉を覚え、文字を覚え、そして社会を覚えていく。その…

Vol.49 月 / 山崎まさよし (2007)

宵待ち二人の行く先いずこ月の航路は櫂なき小舟流るるままに下る水面にはねる水なく通わす夜曲嗚呼、世は捨てきれず、赦され知らず繋ぐ小指の細き儚さ 重ねる逢瀬の果てすら知らず屋根無き舟は二人を晒す預けた身体のただ結ばるるまま小舟の底に身を隠せど細…

Vol.48 Tree / SEKAI NO OWARI (2015)

ハーメルンの笛吹き男に連れ去られた130人の子どもたちの行き着く先は夢の世界か、それとも魔物の待つ地獄か。子どもたちは勇ましく行進をしたのか、それとも意識を奪われ夢心地の中で歩いていたのか。 SEKAI NO OWARI『Tree』。この中にあふれるパレード感…

Vol.47 infinite synthesis 2 / fripSide (2014)

-アニメタイアップによるデジタルポップの復権- アニメソングと打ち込みサウンド、デジタルポップの相性の良さは今に始まったことではなく、古くはTM NETWORKの大ブレイクのきっかけになった『シティーハンター』の「Get Wild」、『ガンダムW』を担当したT…

Vol.46 土用波 / 中島みゆき (1988)

耳を塞ぎしゃがみ込んでしまった君の愛返すあてもなくさまよい続け僕らは陰を探すのに疲れ果てたまだ終わろうとはしない鋭い陽射し目の前の大海はやけに騒々しく声にならない声を打ち消してしまううねる感情 沈む愛情 痛ましい時間かつては満たされたはずの…

Vol.45 ストレンジ カメレオン / the pillows (1997)

果たしてこの40年で僕は何色に染まっただろうか。気がつけば手元には何も残らず、今度こそはと無闇に歯を食いしばり、そしてガス欠を起こしては自ら白旗を揚げるというこの失われた20年間を、一体何色にたとえればよいだろうか。旗の色の通り、白一色なのだ…

Vol.44 WALL / fox capture plan (2014)

ピアノのハンマーは音の流星を産み出す装置。火花を散らして空を舞う高音。低空飛行の熊ん蜂の飛んで行く様は低音。プレイヤーの指は縦横無尽に動き回り、大輪の花火を打ち上げる。 ピアノを中心とした若手インストバンドとして、今、最も注目を集めていると…

Vol.43 夢の中へ / 井上陽水 (1973)

靴をくわえた犬が走る。追う者は誰もいない。犬はその靴が欲しかったのか、本能でくわえているだけなのか。たどり着くのは空き家の床下。そこには大量の靴が集められている。それは犬の宝物なのだろうか。他に欲しい物はないのだろうか。 僕らは常に何かを探…

Vol.42 Wondering up and down~水のマージナル / PSY・S (1989)

雪原を一本に渡る道を走る車。後部座席の小さな窓から見えるは切れそうに薄くなった月。どこか寝不足の頭を抱えながらぼんやりと、そして凝視するかのように見つめる月。どこまでも追いかける月。いや、月が動いているのか、自分は動いていないのか、わから…

Vol.41 東京ライフ / KAN (1992)

東京から脱出を試みたとしても、ヨーヨーのように何度も呼び戻される。結局その引力に負けるかのように逆都落ちをする。だからこそ、全てを飲み込む都市、東京。 延びに延びた地下鉄は、至るゴールまでのルートを無闇に増やし、多くの最短距離を生んでは人を…

Vol.40 RUN / B'z (1992)

日々という道は続いていく。生まれてきてから毎日踏み固めてきた、人生という形のない動力に背中を押されて、また明日も自分の人生を踏み固める。一定ではないその力に体力も気力も左右されながら、日々を重ねて進む。 逆Y字の三叉路。あの人とこの人の日々…

Vol.39 Tomorrow never knows / Mr.Children (1994)

昨日の右足、明日の左足。そして今日の身体。ボディは時と共に成長し、衰える。心はどうだ? 眠りこんだ夜、眠れない夜。迎える朝。何百何千何万の朝を愛し、やつれ、憎み、そして諦めに至る。朝は来る。 見送っていった人たち、生まれてきた子供たち。愛さ…

Vol.38 東へ西へ / 井上陽水 (1972)

塩を指ですくう。そして口へ運ぶ。舌に乗せる。強烈な刺激が走る。それが気付け薬。そしてまた生き返る朝。一日の始まり。 目覚めは日が昇るより少し早く、空は黒の色素を払い落とし濃紺へと近づいてゆく。青への距離はまだ遠い。日の出へ向けた準備。昨日の…

Vol.37 IF YOU TOLERATE THIS YOUR CHILDREN WILL BE NEXT / MANIC STREET PREACHERS (1998)

時折雨がぱらつく、ぐずついた空模様。目の前で子供たちは雨をものともせず走り回っている。大きい子供の後ろを小さい子供が、目に見えない力で引っ張られるようにして、列をなして走り回っている。 いつから雨に濡れることをいやがるようになったのだろうか…

Vol.36 嵐が来る / Dreams Come True (1995)

私の握り拳。あなたを殴りつけるためではない。でも殴りつけたいという思いをぐっとこらえる。そんなに大した理由ではないと自分に思いこませて、あなたの不貞を私の責任に転嫁させてこらえる。私の愛情が足りなかった? いえ、私の締めつけが足りなかった。…

Vol.35 夕立のりぼん / 伊東歌詞太郎 (2014)

唇と唇の距離はゼロになった。それはキスをしたと言うこと。途端に彼女が涙を流し始める。私はそれがまるで自然の行為であるかのようにその涙を舌で拭う。彼女は信じられない物を見たかのような目で私を見ると、後ずさりしはじめ、振り向きざまに雨の中を校…

Vol.34 波よせて / クラムボン (2006)

雨。 水たまり。長靴を履いた子どもが飛び込み、数多のミルククラウンが飛び散る連鎖。歩幅と不規則な波。よせて返してまたよせる。飛び出した先に大きな水玉模様。やがて降り落ちた雨と共に太陽が全てを吸い込み、雲へとあずけて海へと返す。 ドラムロール…

Vol.33 concrete love / Julia Fordham (2002)

年を重ねるごとに、音楽はよりパーソナルな存在へと変貌して行く。一人で楽しむための音楽への変貌。パーティチューンよりも、個人的な大人のラヴソングを。ロックよりも、歪みをなくしたジャズを。そして音数を減らした音楽、音数を吟味した音楽へと趣味が…

Vol.32 わらの犬 / 藤井フミヤ (1998)

吸い込まれるようにして眠りに引き込まれる。抗えない。夢を見ることを目的に眠る、眠る、眠る。自然の眠りでは足りなくなり、ケミカルな眠りも欲する。眠る、眠る、眠る。 ああ、自分は起きているなと覚りながら眠り続けることもある。聞こえるのはトタンを…

Vol.31 (オマエもこの気持良さやられちまいな) 止マッテタマッカ -DLRMX- / LUNCH TIME SPEAX (2001)

動けよこの足。年々動きがのろくなっていく自分の足に叱咤をかけて、腰の痛みまで抱えて無理に前を見て歩く。いや、前を見ればゴールがその視界にないことが分かっているので、ひたすら下を見て歩く。気がつけばゴールにたどり着いていますように、と神に祈…

Vol.30 coup d'Etat / Syrup16g (2002)

たった干支一巡り前の話。適度な敵意、適度な投げやり、適度な絶望。若造のよくある物語。その主人公、ありとあらゆる自分。大勢いる自分。自分が沢山。全てが適度な若造。自分には既にその過去はなく、最早断絶されていた。そう信じていた。 Syrup16gの描い…

Vol.29 雨雲 / 吉井和哉 (2007)

今年三回目の雨雲が通り過ぎていった。少年はずぶ濡れになったシャツを乱暴に脱ぎ捨てては、その小さな手でシャツを絞る。足元に流れる水。少年の胸はまだ薄く、青年になるまでにはまだ時間がかかることを示していた。 雨雲は既に遠く、雲一つない空は、次の…

Vol.28 Go Go Round This World! / Fishmans (1998)

10代、20代、30代。それぞれに、その年なりに君は嘘をついて生きてきた。嘘は方便とも言うけれども、それは自分を誤魔化すためのとても簡単な手段だった。 嘘はピエロの化粧。表情を読み取らせないための、巧みなメイク。自分の感情は全て後回し。人の感情に…

Vol.27 Heaven or Las Vegas / Cocteau Twins (1990)

天女は地に足をつけることを知らず。ただ宙を舞い、大地から足を離すことを許されない人間を見下ろしている。空はどこまでも広く広がっているというのに、人を観察することを楽しみにしているかのように人々の頭上を舞い踊る。 Cocteau Twinsのボーカリスト…

Vol.26 quake and brook / the band apart (2005)

軽やかに滑走するギター。複雑に転がり回るドラム。一緒になって暴れるベース。そして一瞬の呟きを歌にしたかのようにたたみかけるボーカル。細かな場面転換を見せる楽曲構成。the band apartは説明に非常に困るバンドだ。 取っつきやすい?-No。一発で分か…

Vol.25 青空 / 小林建樹 (1999)

悲しみの時、喜びの時。空は全てを見ている。自分の中からぼんやりと消えてしまった記憶も、忘れてしまえと投げ捨てた記憶でさえも、空はしっかりと覚えている。 自転車で走る伴走は風。空は穏やかにそれを見つめ、時に向かい風を与える。何という軽い裏切り…

Vol.24 平凡 / 大江千里 (1988)

ベランダに干されたオレンジ色のTシャツは、確実に灼熱の光を浴びて今にも燃え上がろうとしている。アスファルトに手をやれば、そこに蓄えられた夏が掌を伝って体中から汗が噴き出す。さっきまで聞こえていたはずの蝉の鳴き声は止み、夏が飽和して一瞬の死に…

Vol.23 SEND AWAY THE TIGERS / MANIC STREET PREACHERS (2007)

僕は洋楽を歌詞では聴かない。そもそも高校時代に英語アレルギーが出来て以来、歌詞を読むのにも難儀するし、ヒアリングなんてもってのほか。それがなぜ洋楽を聴くかと言えば、ひとえに歌詞が不明な分、サウンド、語感、感情、立体感、そして色が明瞭に見え…

Vol.22 イキモノタチ / タテタカコ (2007)

忘れ去られた空き地に、赤茶けた猫じゃらしが揺れる。土は乾いているのか。水はまだ欲してはいないか。雨雲はいつまでたっても呼ばれることがなく、ただお天道様が毎日のように進路を取るのみ。土が乾けば身体も乾く。干涸らびた身体を動かす水もなく、ただ…