雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.11 新しい青の時代 / 山田稔明 (2013)

形見の古ぼけた一眼レフ。フィルムを入れて出掛ける今日は写真日和。レンズは一本だけ。今日は何を切り取ろう。線路沿いに咲くムラサキハナダイコンの群生か。裏道で出会うかもしれないあくびを浮かべる野良猫か。公園中を走り回る子どもたちの姿か。ビル街の隙間を流れる一片の花びらか。

このカメラは言葉を切り取る。全ての写真は一つの言葉。時折季節がその言葉に華を添える。今は青い春。切り取った全ては青の色彩。ブルーの光景はどんな言葉を生んでくれるのだろう。どんなブルーがこのレンズの中に飛び込んでくるのだろう。

知らない道を歩き、初めて目にする物を選びながら切り取るちょっとした散歩と緊張。36枚だけに許された言葉は、今日一日だけ有効の片道切符。どこまで行けるのか試してみよう。

歩いて探す青色の光景。これはどう?いや、言葉が少し違う。ではこれならどう?あ、いい言葉になりそうだ。メモとペンはいらない。写真が言葉を記してくれる。出来上がった写真に言葉を後からつけることだって出来る。なんて素敵な機械。フィルムは少しずつ言葉で埋められていき、残りわずかになる頃にはもうすっかり日も暮れようとしている。夕暮れの言葉はどんな写真になってくれるだろう。最後の最後、夜になったらどんなブルーの言葉が待っているだろうか。

36枚の言葉が終わるのは、今日という一日が終わる証拠。今日の言葉が現れるのはまだ数日先の話。焼き付けられた言葉たちがまた新しい言葉を生む。その繰り返しの中で一年間を飾れば、ピンで留められた写真たちは次々と言葉の泡を生む。部屋は言葉で埋めつくされ、そして新しい日にまた言葉を切り取りに出かける。その繰り返し、言葉の中で僕は生きる。写真という言葉の中で。

(718文字)

 

新しい青の時代

新しい青の時代