雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.17 Blue / Simply Red (1998)

鼓動の一撃。計器に記されるパルスはどこまでも青く、リズミカルに上下動を繰り返す。歌声はこれほどまでに伸びやかに響いていくというのに、心臓の値はこれ以上跳ね上がることがない。それが人の限界。誰もが分かっていること。

メロウに歌い上げても、フックを効かせても、心臓のリミッターがある限りは、それ以上は決して伸びることがない。それでも歌は続く。それならば臓器に正直になって歌えばいい。身体を使い、肺を使い、喉を使う。自在に使い尽くして歌い尽くす。それが歌い手である限りの責務、もしくはギフトの履行。

ミック・ハックネルは歌の姿を教えてくれる。歌は情熱であり、愛であり、人生でもあると。抑制を効かせた中に小さな灯りを、張り上げた時には燃やし尽くす炎を歌う。その情熱を、その愛を、その人生を波形に変えて、聴き手の耳深くに入り込み、体内のパルスを変動させる。鼓動を声に合わせ、その炎を調整させ、やがて骨を抜く。その声が身体を緩く蝕んでゆく。多幸感とともに。

ブルー・アイド・ソウルと呼ばれるその声は人種と目の色の壁を軽やかに越え、与える多幸感は鼓動を緩やかに乱す。それがメロウとされる声の副作用であり、その副作用を引き起こす声の持ち主は、聴き手のパルスを自在に操れることを知りながらも、その凶器を使うことを惜しまない。それが振り下ろされた時に訪れるのが鼓動の一撃。鉈を振り下ろすかのように次から次へと声を繰り出す。聴き手はなす術なくその犠牲となる。痛みを伴わない幸福の傷を次々に作りながら、攻撃に身を任せる。無防備に。

スパイスの効いた弛緩は耳のリミッターを外す。そしてその声は、自分の心に常に火が灯っていることを教えてくれる。どれだけ臓器が冷たく沈んでいたとしても、それを軟らかく溶かす灯火があることを。それがミック・ハックネルの魔術。心へと効く万能の魔法。

(770文字)

 

Blue

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