雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.19 KAORI / 高野寛 (1996)

あなたの愛の滴はどこまでも僕を困らせて。雨の降り始めとアスファルトの匂い。砂埃が舞い上げるそれは、汗と衣擦れにさらされたあなたの身体の匂い。本降りになる前に消えてしまえ。

やがて雨。濡れそぼった犬の悲しげな顔と、あなたの戸惑いの顔。受け入れるも拒絶するも、ボールは僕が握っている。左手で投げるか、右手で投げるか。それは簡単なコイントス。サイドを選ぶのも僕だ。

全てを脱がせてしまえば、あとは溢れるだけのあなたの愛の滴。一瞥。それでも僕は背中を向け続ける。満ちるあの匂いと噎せ返るほどの汗の匂い。背筋を伝う震えは僕も雨に濡れていたということか。言葉は拾えず、ただ呼吸だけが二人の行き先を待ち受けている。

微かな心音。やがて呼吸と心音が重なった時に決まるコインの行方。手の甲に落ちたそれは裏を示し、そしてルールを決めていなかったことに気がつく。一つ笑む。掌に汗をかいていたのは僕の方で、あなたはもう既に覚悟を決めている。その匂いで、全てを語っている。

やがて僕は必ず受け入れる。ボールの行方もコインの行方も放り出し、伝うあなたの愛の滴をためらいなく受け入れる。匂いならこの僕も発している。ためらう前に、既に身体はサインを発している。言うことを聞かなかった僕の頭だけが冷静を気取り、そして簡単な嘘をつこうとしていた。

雨まだ降り止まず。雨音に全てはかき消されて。やがてカーテンとなるだろう雨に隠れて、あなたの方へと向き直る。愛の滴、まだ乾かず。それはどこまでも僕を誘い、雨に濡れ。

(632字)

 

Rain or Shine

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