雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.24 平凡 / 大江千里 (1988)

ベランダに干されたオレンジ色のTシャツは、確実に灼熱の光を浴びて今にも燃え上がろうとしている。アスファルトに手をやれば、そこに蓄えられた夏が掌を伝って体中から汗が噴き出す。さっきまで聞こえていたはずの蝉の鳴き声は止み、夏が飽和して一瞬の死に向かう。熱風は塩の塔も溶かし、かつて人だったそれを蘇らせるか。夏は死、夏は生。迎えては送る風習も死と生の裏返し。

陽の元に引きずり出された自分の身体は、足元からの暑さに耐えながら歩を進める。イージーな自殺行為。少しだけ重くなり始めた頭が危険を訴えるが、逃げ道はない。影のない街。なだらかに上る坂の途上でふと振り返れば、逃げ水がそこまでの道を隠している。諦めて前を見れば、またそこにも定かではない道が続いている。やはり逃げ場はない。

途方に暮れる傍らを自転車で走り抜ける子どもたちの肌はすっかりと黒くなり、その行き先をふと尋ねたくなり思わず声を掛けようとする。その間には境界線。子どもは子どもの世界でしか生きることが出来ない。そこに大人の入り込む余地はなく、夏は絶望的なまでに人と人の間に線を引く。肌を合わせれば不快。一人でいることを余儀なくされる。

ありふれた夏。自分はそこに悲劇を求めて日々をやり過ごす。大雨は人を殺す。雷は人を殺す。熱は人を殺す。お天道様の気まぐれに殺された人々の、ドラマのない死に感情は麻痺する。夏は悲劇すら奪う。不謹慎な楽しみに喜びを覚えるはずの毎日が、夏という言葉だけで平凡な一日と化してしまう。

蝉、再び鳴き始める。今日もどこかで自分は夏をさまよっている。

(664字)

 

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