雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.27 Heaven or Las Vegas / Cocteau Twins (1990)

天女は地に足をつけることを知らず。ただ宙を舞い、大地から足を離すことを許されない人間を見下ろしている。空はどこまでも広く広がっているというのに、人を観察することを楽しみにしているかのように人々の頭上を舞い踊る。

Cocteau Twinsのボーカリストエリザベス・フレイザーは天女か歌姫か。大地に足をつけて歌う人間とは異なる次元で宙を漂い、特定の言語を持たずに歌を紡ぐ。歌詞は人間の耳を虜にする呪文。理解を求めるのではなく、原始的な感情にダイレクトに訴えかける。

メンバーは大地から天女に向けて上昇気流を起こすかのように幻想的な音を織りなす。どこまでも煌びやかに、天女が舞い踊るための舞台を作り上げ、そしてこの世のものではない脆い糸で緻密に音を編み上げる。雑味のない空間遊泳。テレビ石の結晶を放り込んだ万華鏡のように、カラカラと回せば無限の模様が出来上がる。すべては天女に捧げる奉納の音楽。

地に足をつけたサウンドと、絶対に地上には降りてこないボーカルとの距離が描くファンタジックな絵空事。宙を舞う天女のその足を掴んだかと思いきや、音がすぐに風を起こし、その天女を、さらに高い位置へと舞い上げ、掴まれた手から引き離す。

それは夢かうつつか。この世のものではない言葉を紡ぐ天女の呪文は、人々の心に想像力をかき立てる。明晰な白昼夢に疲れた頭を抱えた時のように、時間がどこから途切れたのか、どこへ着地したのかが見えなくなるその一瞬を捉えたかのような想像と現実の狭間。するりとそこに入り込み、ここは現実ではないと音が訴えかける。そしていつまでも続く白昼夢。そのループから抜け出すことを許されない籠の中の鳥、それは人間。天空の音楽に捕まってしまった人間。

現実に戻るための鍵もなく、360度に鳴り渡る音に囲まれ、やがて疲れて再び眠りに就く。眠りを誘うのも天空の音楽。天女の呪文は人を迷宮に誘い込み、そこから二度と出られないループを作り出す。呪文を解析することも出来ず、音は天女に力を与え続け、そして囚われ人になった人間は、音の中で昏々と眠る。

鳴り止むことを忘れた音楽と、舞い続ける天女の呪文は、人に夢を与え続ける。永遠に止まない夢を。

(908字)

 

Heaven Or Las Vegas

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