雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.32 わらの犬 / 藤井フミヤ (1998)

吸い込まれるようにして眠りに引き込まれる。抗えない。夢を見ることを目的に眠る、眠る、眠る。自然の眠りでは足りなくなり、ケミカルな眠りも欲する。眠る、眠る、眠る。

ああ、自分は起きているなと覚りながら眠り続けることもある。聞こえるのはトタンを叩く雨粒の音。カン、カン、カン。ああ、水面に寄せる波紋が僕の眠りの波に変わる。僕は眠る。

いつからか何もしなくてもよい生活になった。自由か不自由かも分からない。ただ眠っていることだけが唯一僕に出来ることで、それをとがめる人もいない。気がつけば僕はいつも一人だった。眠る、眠る、眠る。時々、思い出したかのように食べる。それすら眠りの中で動いているだけに過ぎないのかもしれない。そして、眠る。

まるで人形にでもなったようだと僕は常々思っている。夢の中でも、現(うつつ)の中でも。眠っていることを商売にして、他に何をするでもない。誰かが自分の身体を動かせば、きっとそれには逆らわずに動いていく。起き上がらせようとすれば、きっと身体は起き上がる。でもきっと僕は眠っている。

人形になることを求めたわけではない。何かから逃げようとしたわけでもない。眠ることがただ心地よく、自分が求めていたものが眠りだと気がついた時には、もう眠ることが僕の全てになっていた。

眠る、眠る、眠る。また現が僕を呼ぶ。その中間で眠る。さらに現が僕を呼ぶ。現の水面に自分が現われても、僕の意識は眠っている。どこからか犬の遠吠えが聞こえてくる。犬は眠り続けることが出来るだろうか。僕には眠り続けることしか出来ない。ケミカルを数錠。また眠る。

夢と現は逆転しない。夢は夢。現は現。それでも眠りというくくりの中に入れてしまえば、全ては眠り。眠りによせて僕が出来ることは、ただ静かに、時折物音を感じながら、やはり眠ることなのだ。

眠る、眠る、眠る。カレンダーを忘れ、時計を忘れ、太陽を忘れ、夜を忘れる。僕は眠り続けるだけのただの眠り人形。

なんだ、やはり人形じゃないか。

(820字)

 

わらの犬

わらの犬