雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.33 concrete love / Julia Fordham (2002)

年を重ねるごとに、音楽はよりパーソナルな存在へと変貌して行く。一人で楽しむための音楽への変貌。パーティチューンよりも、個人的な大人のラヴソングを。ロックよりも、歪みをなくしたジャズを。そして音数を減らした音楽、音数を吟味した音楽へと趣味がシフトしていく。ボーカルはソフトに、ギターはアコースティックに。

そしてある時からチャーテッド・ソングスを聴かなくなる、いや、聴けなくなるのはそう言うことなのだろう。自分は若くはないと嘆く前に、自分はもう自分だけの音楽を見つける年に足を踏み入れたのだと考えると、全ては納得が行く。自分だけの音楽。見つけてみましょう。

今回見つけたのは、90年代に日本でもスマッシュヒットを飛ばしたJulia Fordhamの2002年作品『concrete love』。BPMをぐっと落とし、夜の雰囲気を作り上げた女性シンガーソングライターの楽曲が11曲並ぶ隠れた名作。

リズムセクションは基本的に打ち込みなのだけれども、喧しいところは一切ない。人の鼓動をサンプリングしたかのように、聴き手の心に鳴り渡るはずだ。そして上物(うわもの)。アコースティックな方向性を打ち出すかのように、優しい音だけが吟味されて重ねられている。無駄は一切なく、それでいて人に寄り添う体温を忘れていない。軽いハグをほうふつさせるような、ライトかつ耳から身体へとしみいる楽曲が並んでいる。

そして普段は物静かに歌うジュリアの、時折見せる明るい笑顔の歌声。この落差に落とされない男性もそうそういないだろう。もちろんそれは女性の耳にも同じくチャーミングに聞こえてくるはずだ。人生の苦味をしっかりと噛みしめた女性だけがかもし出せる抱擁力は、もしかすると男性よりも女性の耳に響くかもしれない。

ヒーリングミュージックで癒やしを求めるわけでもなく、音楽から距離を置いてしまうでもなく、大人による大人のための心優しいポップスが存在することを、是非忘れないで欲しい。音楽は幅広い選択肢を用意してあなたを待ち、いつでもあなたの心の隣に寄り添う準備ができているのです。選びましょう。大人の音楽を。