雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.43 夢の中へ / 井上陽水 (1973)

靴をくわえた犬が走る。追う者は誰もいない。犬はその靴が欲しかったのか、本能でくわえているだけなのか。たどり着くのは空き家の床下。そこには大量の靴が集められている。それは犬の宝物なのだろうか。他に欲しい物はないのだろうか。

僕らは常に何かを探している。財布の許す限り、時間の許す限り。具体的な物、抽象的な何か。誰かはパートナーが欲しいと言い、誰かは誰も見たことのない景色が見たいと言う。探し物を数え上げればキリがない。人の数だけ、いや、人の数以上の捜索物が世の中にはあふれかえっている。いや、それも正しくはない。あふれかえっているように見えて、実際のところは何も具象化されてはいない。探している限り、それらは逃げ水、蜃気楼。

欲は尽きることを知らず、飽和していく一方。やがて陸地はそれを支えられなくなり、徐々に海へと投げ出されていく。地球を埋めつくすかのような欲望の数々。探せども探せども手に入らず。幸運にもそれを手に入れた者は、間もおかずに次の欲を目指して突進する。

なくしてしまった物を探す者もいる。さっきまではそこにあったはずなのに、いつの間にか手元から逃げ出してしまった物。逃げ出した物は主人の見つけられない処へと雲隠れをする。主人は血眼。あれほど大切にしていたはずなのに、逃げ出されてしまうのは一瞬。それは本当に欲しかった物ですか?形になっていたはずのものですか?形のあるものないもの問わず、消えてしまったのならば仕方がない。代わりの物では駄目ですか?そうですか、駄目ですか。

探し物に躍起になっていた皆さん、見つかった時の気分はいかが。安堵のため息、喜びのガッツポーズ、大袈裟に永遠を誓う者。よかったですね。でも、それ、またきっとなくしますよ。なくした時の絶望を味わいたくなかったら、しっかりと自分の名前を書いておきましょう。そしてマーキング。犬のように自分の印をしかと刻み、もう二度と離れることのないように、神に誓いましょう。

やがて取り壊された空き家を前にして、犬はしょぼくれる。でも犬は知っている、宝物はまたどこからか見つけてくればよいだろうと。本能で次の探し物へと向かっていく。地面を蹴って、またどこかへと。人は手に入らない物までをも探そうとする。人よりも賢く、犬よ、走れ。

(941字)

 

GOLDEN BEST

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