雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.44 WALL / fox capture plan (2014)

ピアノのハンマーは音の流星を産み出す装置。火花を散らして空を舞う高音。低空飛行の熊ん蜂の飛んで行く様は低音。プレイヤーの指は縦横無尽に動き回り、大輪の花火を打ち上げる。

ピアノを中心とした若手インストバンドとして、今、最も注目を集めていると言ってよいユニット「fox capture plan」。ピアノの音にはちょっとしたアンビエントな空間処理を持たせて、ドラムとベースが支えるだけの土台の上を流麗な音が駆け巡る。一歩間違えてしまうと単にお洒落なBGMになってしまうところを、印象的なメロディとアンサンブルを作り出すことで、独立した音楽として聴けるように仕上げられている。

ここに至るまでにフルアルバムを2作リリースしているが、いずれも狐を捕まえると言ったバンド名のわりには、逆に追いかけられている立場になっているかのような軽薄なインストだった。それが本作ではようやく熟成を見たか、方向性を掴んだか、完全に狐を捕まえにかかった。これまではメンバー全員があさっての方向を見ながら演奏していたものが、ようやく一つの楽曲をメンバー全員で構築するというスキルを身につけたと言ってもいいだろう。

単なるBGMに成り下がらないのは、ひたすらに弾きまくるピアノが存在しているからこそ。とにかく次から次へと音を追いかけようとする旋律を繰り出し、耳を休める間を与えない。かといって、これ見よがしな饒舌プレイに陥るわけでもなく、和音よりも比較的単音主体で五線譜に点を打っていく様が手に取るように分かり、これがなかなかに痛快なのだ。黒玉も白玉も休符も上手く使い分け、時に浮遊する空間を、時に隙間のない音の渋滞を、時に全くの無音を表現することに成功している。

もちろん即興性の要素も多いだろうが、しっかりと次の音をつかみ取るためにメロディを構築しているように聴いてとれる。それが楽曲を最後まで完遂する力に転じているのだろうと。そして主役であるピアノの旋律を引き立たせるために組み上げられたドラムのリズムパターンと、ベースラインもまた、この演奏を成立させるためには必要不可欠な要素として、音楽的な快楽へと導いてくれる。基本的にクレバーで端正なのだ。

無論、まだまだ音楽的な成長のマージンは多い。ふと訪れる単調な音の組み合わせも時折顔をのぞかせる。だからこそ、その成長を見届ける上においては、本作はこのユニットの入口として最適なポジションにあると言えるだろう。2015年は活動の手を休めることなく走り続けると発表したfox capture plan。次々と届けられるという音源での成長を期待しながら、この作品をさらにじっくりと聴き込むことにしよう。

WALL

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