こつこつと貯めていく僕の価値。出目の大きさに左右される毎日。カードのガチャ、アンケートのガチャ、毎回10ポイント。それ以上でもなく、それ以下でもなく、昨日も今日も10ポイント。そんな些細な人生の価値。 大勝ちするわけでもなく、小さく負けるわけで…
千切れたフィルム。からから回るだけの映写機。ピッチの狂った、主不在のレコードプレーヤー。千の歯車は規則正しく噛み合い、この大きな球を転がしているというのに、どこからか飛び跳ねた一片が、それをガラガラと瓦解させる。世界中のアメリカンクラッカ…
あなたの愛の滴はどこまでも僕を困らせて。雨の降り始めとアスファルトの匂い。砂埃が舞い上げるそれは、汗と衣擦れにさらされたあなたの身体の匂い。本降りになる前に消えてしまえ。 やがて雨。濡れそぼった犬の悲しげな顔と、あなたの戸惑いの顔。受け入れ…
記憶は蜃気楼。あの時の場面はいつの間にか揺らぎの彼方に映し出されるだけになっている。それすらも曖昧で、そこに果たして自分はいたのだろうか、誰かが作り上げたショートムービーなのではないかと自信すらあやふやに。10年前は近い過去ですか?20年前は…
鼓動の一撃。計器に記されるパルスはどこまでも青く、リズミカルに上下動を繰り返す。歌声はこれほどまでに伸びやかに響いていくというのに、心臓の値はこれ以上跳ね上がることがない。それが人の限界。誰もが分かっていること。 メロウに歌い上げても、フッ…
夏。じりじりと照りつける太陽を背中に恨みつつ歩を進める。子どもの夏、大人の夏。頭が眩むような暑さの中で、思考は時間の感覚を曲げる。子どもの夏が頭の中に乗り移る。 ゲーム。陣地に早く入り込んだ方が勝ち。走り回るだけの単純な遊び。そこで何かを気…
別れの時、手を振る彼のその視線はどこにも合っていなかった。渦巻くコンプレックス。誰もが抱えているそれを直視しているように見えて、それでも逃げ出したいと思うのは当然のこと。それでも目の前の壁は俺を乗り越えろと訴えかける。目標がある限りにおい…
躁と鬱の波間に踊り狂う小舟は、その間に何の果実を搾り取るのか。人生の実。暴れる船首で航路を見据えながら、一囓りくわえ込んでは咀嚼もせずに飲み下す。甘露と苦味。揺れ動く二つの道を選択する船頭はどこへ消えた? 言葉の渦。迂回は許されるはずもなく…
それまでキワモノ扱いされていたアイドルが、中田ヤスタカという鬼才の手によって人間の温かみを捨て、ただひたすらにトラックの一環としてのボーカルを極めたという意味では、前作『GAME』を遙かに超えたクールネスが全体を覆い尽くす、相当に異端なアルバ…
友を亡くした悲しみはどこから降ってくるのか。友は長いバケーションに旅立って行ったような感覚しか手元にはなく、僕は悲しみからはいまだほど遠いところにある。むしろ心に巣くうのは虚無感、僕の永遠のパートナー。もう連絡もつかないところに彼は行って…
形見の古ぼけた一眼レフ。フィルムを入れて出掛ける今日は写真日和。レンズは一本だけ。今日は何を切り取ろう。線路沿いに咲くムラサキハナダイコンの群生か。裏道で出会うかもしれないあくびを浮かべる野良猫か。公園中を走り回る子どもたちの姿か。ビル街…
あなたあなたあなたあなた。あなたがいない世界は何もないのと同じ。あなたがいなければわたしもいない。 一体どれだけのあなたが繰り広げられいるのか。あなたがいるだけで世界は輝く。わたしはそんなあなたのいる世界が好き。わたしはいらなくてもいい。と…
アニー・ハズラムの声があれば、音は美に堕ちる。プログレッシヴ・ロックにカテゴライズされることの多いRenaissanceだが、実際にここに繰り広げられる音の饗宴はむしろフォークシンフォニックロック。そしてそれは力強くも繊細な楽器隊と、主人公の一人でも…
金属製の階段を下る。足音は金音。自分が確実に階段を降りていると確証出来るその音は、一定のリズムで階段室に響き渡る。ちらついている蛍光灯。時間から取り残されたように薄汚れた壁。うっかり手をついてしまうようなら、その埃が手のひらの跡をつけてし…
ピンキッシュブルー。男性諸氏、いや、僕らは間違いなく性欲に左右される日々を送ったことがあり、それを昇華させる術を色んな形で試行錯誤してきたはずだ。だから、中年のオッサンが仕事帰りでぐったりしている地下鉄の中で、身をすりあわせていちゃいちゃ…
少年少女たちは前を向き続けることが出来るか。 この作品の中で作り込まれている世界ははただの寓話、現代のお伽噺。ピーターパンたちはいつまでも一つの世界、一つの人間関係の中でのみ物語を紡ぎ出し、その時代を忘れてしまった大人たちを敵に回す。自分が…
音は恋をしたことがあるだろうか。 楽器と声が複雑に絡み合い、音符という一瞬の出来事の連続の中で音楽は作られていく。それぞれが色を持ち、意味を持ち、役割を与えられ、その中で楽曲は進んでいく。その瞬間を切り取った際の楽器の交わりあいを人間に例え…
自分は「入り込む不安と明日を憂い」ながら生きている。頭上の雲はいつまでも放たれることはなく、最後の晴天はいつだったのかも思い出すことすら出来ない。薄曇りの空の下、ガラスで出来た時間の上をおっかなびっくり歩くその姿は、見る人からすれば非常に…
スガシカオの世界はうさん臭い。体臭よりもひどいあの臭いも、人のえげつなさも、それでいて下心を決して隠そうとしない人間同士の愛情までをも曲の中に描いてしまう。そこに人間への愛はあるかと問われると、はたと考え込んでしまう。この人は人間が憎いの…
ボブ・モウルドは歌う。成功することの困難を。一人きりであることの孤独を。ハスカー・デュー解散後の一人旅を一枚のディスクに封じ込め、自らの感情を素直に楽曲に投影していく。アコースティックギター一本で奏でられる、天使の梯子でもある「Sunspots」に…
傷口は未だふさがらず、あれから十年は経過したか。私は相変わらず地下鉄に揺られ、どんな表情を浮かべて良いかも分からずに、ただイヤホンから流れてくる音楽に傾聴する。ささくれだった私の心を砥石で研ぎ均すかのようにその音と叫びをいつまでも繰り出し…
これまで15年以上、ほとんど誰の目にも触れることなく音楽に関わるアーティクルを書き続けてきましたが、そのどれもが主題もなく(商業誌への寄稿は除く)、楽曲から受ける自分の妄想が主体であったり、レビューのようなものであったり、さらには単なる「今…