雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.15 Lifetime / GRAPEVINE (1999)

別れの時、手を振る彼のその視線はどこにも合っていなかった。渦巻くコンプレックス。誰もが抱えているそれを直視しているように見えて、それでも逃げ出したいと思うのは当然のこと。それでも目の前の壁は俺を乗り越えろと訴えかける。目標がある限りにおいては。

僕らは青春と呼ばれる日々を果たして充実したものにした上で、中年というネクストレベルに上がることが出来たのだろうか。また充実させてきたと自負する人たちは、そこに鬆があったことには一生気づくことなく、また次の世代へと上がって行くのだろうか。世代としての責任は果たしたのか。

背負うものを背負い、足取りも重く人生の階段を登り行く友のその疲労を自らに投影させるに、いかにその自由度の高さよ。それは無責任と呼ばれるものだろうか。

目標たる目標も持たず、時間だけをいたずらに費やしては次のレベルに強制的に上げられてしまえば、待っているのは困惑と無力感。アリとキリギリスはどちらが本当の勝者なのか。自分はどちらだったのだろうか。まだ間に合うだろうか、もう手遅れだろうか。

自らを計量する尺度なるものがあれば、そのメーターに掛けられることを望む。それは主観のメーターか客観のそれか。主観に自信はなく、客観は容赦なく自分のレベルを低いものとして評価する。それでも壁。越える力を持たないことへのコンプレックス。乗り越えられるか。90度の傾斜を紐もなく乗り越えるだけの力、クライミングではなくジャンプ力。天井を持たない壁へ臨むにおいて、余計なものを抱え込んではいないか。しがらみはないか、やり残したことはないか。中年へと進むにおいての準備は万端か。助走に至るその背中に無駄に積み込んだものはないか。

壁を見上げ、途方に暮れるだけの時はもう過去のもの。背中で渦巻いているコンプレックスよ、自分の身体を高く跳ね上げるだけの浮力を生み出せ。軽くその壁を乗り越える力と変えろ。ネクストレベルへと進む躊躇は捨てろ。足踏みを助走へと切り替える今、ありとあらゆるコンプレックスよ、自らを動かす力となれ。

(851文字)

 

Lifetime

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