雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.36 嵐が来る / Dreams Come True (1995)

私の握り拳。あなたを殴りつけるためではない。でも殴りつけたいという思いをぐっとこらえる。そんなに大した理由ではないと自分に思いこませて、あなたの不貞を私の責任に転嫁させてこらえる。私の愛情が足りなかった?

いえ、私の締めつけが足りなかった。

私にはあなたを縛りつける権利があった。だって、あなたは私のもの。愛で縛りつけること、締めつけることは悪いことではないでしょう。そう訊ねる。

そうかもしれないね。あなたは他人事のように答え、自分の罪を認めない。あなたの罪は不貞。私の罪は放置。それでいて私があなたを殴る権利がないというのは、少し甘えた考えじゃないかしら。

風が吹く。嵐をはらんだ風が吹く。あなたに会うためだけにセットした髪があばれ、私はきっと鬼の形相。

愛はある。あなたにも私に対する愛がある。それは分かっている。それが証拠にあなたは微笑んでいる。私の握り拳もきっと見ている。殴られない自信がある。殴らない弱みがある。愛してる。

今すぐ、その場で愛してると言って。その一言で私は全て取り下げる。あなたへの疑問も疑惑も、全て放り捨てて、あなたの愛の中へと飛び込んでいける。私は弱い言葉を口にする。

「私のこと、愛してる?」

その言葉が彼の耳に届いた瞬間、彼は目をそらさずに満面の笑みを浮かべる。もちろん。そう彼は言った。その言葉に嘘はない。でもやはり彼はどの女性にもその言葉を口にする自信がある。私はもう一度拳を握りしめる。

「本当に?」

また弱い言葉を口にする。弱い言葉を口にすればするほど、拳に握りしめられた力が強くなる。彼の前では私は圧倒的に弱い。きっと彼はそれを知っている。知らないで白を切ることは出来ない。

本当にさ。また彼は口にする。彼は風を背負う。それは数多もの愛。愛という嵐の中に生きる彼の強さ。私には到底独占出来ない彼だけが持つ愛の懐。そこに入っているだけで私は満足出来たはずなのに。はずなのに。

嵐が来る。私の心の中をざわめかせる大きな嵐が。そのざわめきの中で、それでも私はあなたを愛し続ける。あなたが心の中に持つ数多く広い愛情が、私をその一部にしてしまう、あなたの中の嵐は遙かに私のものよりも大きい。私には勝てない。あなたの持つ、その消えない嵐の前では。

(928字)

 

嵐が来る

嵐が来る