雑音万華鏡 -Noiz-

愛してやまない音楽たちにあふれんばかりの情を込めて

Vol.20 MANIA MANIERA / ムーンライダーズ (1982)

千切れたフィルム。からから回るだけの映写機。ピッチの狂った、主不在のレコードプレーヤー。千の歯車は規則正しく噛み合い、この大きな球を転がしているというのに、どこからか飛び跳ねた一片が、それをガラガラと瓦解させる。世界中のアメリカンクラッカー。その規則はボールを潰しあい、確実に球面を削っていく。

回る回るよ地球は回る。今日もどこかで上がるシュプレヒコール。どれだけの人数がどれだけの大きな声を上げたとしても、その反対側には一切届かないモスキートボイス。投石、手榴弾。大なり小なりの殺傷力。命尽き果てたとて、ただの魂の回収。土へと返るだけの話。母胎には戻れない。

時代が変えるどこかのルール。どれほどの反対と後押しがせめぎ合ったとしても、時に勝るものは無し。恨むなら時の流れを恨め。恨んでも恨みきれない人々の声もやはり単なる虫の羽音、時に抗うことは出来ない。変えられると思うものは変えられない。変わってしまうものが勝手に変わっていく。からからと回る糸車から外れた一糸。綻びは些細なところから始まり、誰もが気がついていたとしても、ルールはすでに捻れている。

誰かが掲げた反戦歌とプラカード。平和に包まれた世の中で、それは決してマイナーコードにはなり得ない。ええじゃないかと踊ってみせるパフォーマンス。時が経てば絵の中のお祭り。事実を映しているという映写機は既に壊れていた。声を届けるレコードプレーヤーも既に壊れていた。やがては全て崩れる。人の命は二の次に、紙切れ一枚上の写真が謳う事実。遠巻きに眺めるだけの事実。

声を上げろと誰かが叫んだ。だからさっきも言っただろう、それは虫の羽音。鳥に取って食われ、歪んだ食物連鎖の中に取り込まれて終わる。地球の上では無力が蔓延し、そしてやがて全てが諦念の元に終わる日がやってくる。Love And Peace. Rest In Peace.明日もまたどうせどこかで誰かが叫んでいる、投げている、殺している。

諦めて眠れ。

MANIA MANIERA

MANIA MANIERA